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[コラム]旅人・宮脇俊三 家庭人・宮脇俊三


鉄道に魅せられた旅人 宮脇俊三

鉄道に魅せられた旅人 宮脇俊三

平凡社
宮脇俊三の人生を一冊に凝縮



時刻表昭和史の旅を追いつつ、毎日新聞社所蔵の当時の写真などを組み合わせた記事が良かった。宮脇俊三ワールドのメモリアルブックです。
 私にとって宮脇俊三さんの印象は"孤高の旅人"だった。列車に揺られ、車窓を楽しみ、人々を観察し、文章に"昭和"を刻みつづけた。同行者のいる旅も多かったけれど、宮脇さんにとっては車窓と同じ観察の対象であり、作品では"私"という位置を守っていた。

 宮脇作品には数えるほどしか家族が登場しない。それはおそらく"楽屋ネタは書かない"という宮脇氏の信念があったからだろう。しかし、読み手にはそれも"父の孤独"、"独り旅する男の浪漫"と受け止められる。私にとって宮脇俊三文学は紀行であり、ハードボイルドでもあった。共感される方も多いのではないだろうか。

 しかし、宮脇俊三氏の長女、灯子さんが書いた『父・宮脇俊三への旅』を読むと、"孤高の旅人"宮脇俊三さんが、実は"恵まれた家庭人"だったことがわかる。宮脇俊三さんの旅は孤独ではなかった。すべての旅は、慈愛に満ちた家族が待つ"帰るべき所"へ向かっていた。

 三部構成の第一部は、旅人・宮脇俊三さんは、旅先においても良き父だったことを示すエピソードである。宮脇さんは娘たちからプレゼントされたぬいぐるみと手作りマスコットを持って旅をしていた。これは衝撃的な事実である。 宮脇さんが作品中で書いた携行品リストには書かれていなかった。ハードボイルド紀行家だと思ったら、かばんの中にぬいぐるみがいたなんて! 

 家ではカッパのぬいぐるみが相棒だった事も書かれている。カッパの"タマ"とモグラの"アナ"の話は、宮脇文学ファンなら思わずニヤリとするだろう。

 『父・宮脇俊三への旅』ではこのほかにも、娘に絵葉書を送り、土産に欠かさずキーホルダーを買うなど、家庭人・宮脇俊三さんについての興味深いエピソードがいくつも紹介されている。

 第二部は父と娘のエピソード。宮脇俊三の父親像について書かれている。宮脇俊三さんが"家庭を顧みない旅人"ではなかったことが証明されている。娘から命名の由来を聞かれても素っ気無く答える父。しかし、後日、文字選びに悩んだことを示すメモがみつかる。娘の初めての独り旅へアドバイスする父、名編集者として厳しく指導する父。良いパパだっただなあ、と思わせる話が多い。

 第三部は宮脇俊三氏の闘病生活と家族を描く。宮脇俊三さんの晩年は酒びたりだったという。さらりと書かれているが、家族を心配させ、悲しくさせることも多かったと想像する。その父が入院し酒を断たれ、父と妻子はようやく安らかな対話のときを過ごした。ドラマのようにやさしく切ない話が続き、鼻がつんとする。

 衝撃の事実がここにも。宮脇俊三さんの戒名は自身による考案と紹介されていたけれど、実は妻と娘たちによる合作だった。さらに、宮脇俊三さんが生前に、鉄道ファンが墓参りに来るときのために墓石のそばに目印を置いてほしい、と遺言していたことが明かされる。

 宮脇俊三さんの自著で、自宅まで押しかけてきそうな鉄道ファンを"やんわりとお断り"したエピソードがあった。だから私は宮脇さんが"読者とは距離をおきたい"と考えていると思っていた。だから私は墓参りを遠慮していた。そんなファンも多いのではないか。

 宮脇さんの家族は遺言を守り、墓所に目印を置いたそうだ。どんな目印かはここでは書かない。灯子さんから読者へのサービスだと思うので、ぜひ本書を読んでいただきたい。

 さて、これはご家族からお墓参りのお許しを頂いたということだろうと思う。私は本書を夜中に開き、一気に読み進んで朝を迎えた。お参りにはいつ行こう。ファンが"周遊忌"と呼ぶ命日はご家族のために、お彼岸も宮脇さんに近い人のために遠慮すべきだろう。快晴の夜明けだから、いまからお参りに行こうかとも思った。しかし、今の私は墓前に立てる資格があるだろうかとも思う。

 私は宮脇さんのデビュー作の"時刻表2万キロ"に因んで、JR全線を踏破したらお参りしようと決めた。良いけじめになるし、四国八十八箇所を巡るお遍路さんが、最後に高野山の弘法大師様に報告に行く様に似ておもしろい。ああ、そういえば"同行二人"という言葉もあるな。その様式も拝借しよう。たとえ一人旅であっても、僕はいつも宮脇俊三さんと旅をしている。うん、そのほうが楽しい。

父・宮脇俊三への旅

父・宮脇俊三への旅

グラフ社
鉄道紀行作家の長女が綴る父の姿

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